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アークハリマと二相系ステンレス
マテリアル部
営業課
山口 太亮
マテリアル部
営業課
山口 太亮
価格高騰の危機を挑戦のチャンスに
2004年、ニッケル価格が急騰した。世界的なステンレスの増産に新規鉱山の開発が追いつかず、ストライキも重なった結果だった。ニッケルが急騰するとステンレス価格も倍近く上昇。世界中であらゆる工業製品の生産が滞る危機だった。
危機的状況は日本においても同じ。しかし、このピンチをチャンスと捉え、新たなマーケットの開拓に挑戦する企業が日本に1社だけあった。アークハリマである。アークハリマはその年、二相系ステンレスの取り扱いを開始することを決定し、フル在庫ラインアップの体制を整えた。
二相系ステンレスとは、耐食性と高強度、2つの長所を併せ持ち、過酷な環境で真価を発揮する高機能材料だ。しかもこの二相系ステンレス、ニッケル含有率が一般的なステンレスよりも低く、ニッケル価格高騰の影響が少ないという特徴も持っており、ステンレス価格の上昇に逼迫する世界中の工業界から注目が集まっていた。ただし、二相系ステンレスがまったく流通しておらず、その存在すら知られていなかった日本は、世界の流れの外にいた。
そこに以前から取引関係にあった海外メーカーから提案があった。
「高機能で価格も安定。二相系ステンレスはこれから飛躍する材料だ」
なるほど、機能の面でも価格の面でも魅力的な材料だ。しかし、認知度が低い材料。しかも海外製だ。通常、新しい材料が開発されると、鉄鋼メーカー自らがPR活動を行い、用途を開拓する。しかし、日本には大手鉄鋼メーカーが複数あり、海外メーカーが乗り込んできて拡販活動を行うことはない。いくら二相系ステンレスが魅力的でも、地方の一商社に過ぎないアークハリマにメーカーと同じ役割が担えるのか。追い風は確かに感じるが、目の前には大きな壁がそびえ立つ。
だが決断は早かった。元来、「おもろいやないか」と思えば「やってみようや」と行動する企業風土があり、企業としても次なるステップアップの手段を探している時期だった。「よし、挑戦してみよう!」と決断するのに時間はかからなかった。
JISの壁、実績主義の壁を乗り越えて
いざ、二相系ステンレスのPR活動を始めてみると、思わぬ方向から風が吹いてきた。中東各地で海水淡水化の国家プロジェクトが立ち上がり、そのプラント建設を日本の重工業メーカーが受注した。そして、そこで使われるポンプの主軸に二相系ステンレスを使うようにと発注元から材質選定されたのだ。海外では耐食性の高い材料として二相系ステンレスが認知されていたからだ。しかし、重工業メーカーから製作を依頼された日本のポンプメーカーは二相系ステンレスを扱った経験が少ない。急遽、国内で調達できるところを探すと、必然的にアークハリマに行き着いた。
だが、これを突破口に順調に拡販できるかと思いきや、本当の闘いはそこからだった。海水淡水化プラントの建設が一巡すると、とたんに発注がなくなった。
海外では厳しい環境に置かれる装置や施設に数多く採用されているといくらPRしても、「海外製の材料は日本のJIS規格じゃないから使えない」「海外は海外、日本での採用事例がなければ検討するのも難しい」と根強い実績主義に阻まれ、扉を閉ざされてしまう。しかし、ここからが本当の営業活動だ。厳しい戦いになることは覚悟していた。商品には自信がある。採用してくれれば必ずお客様のメリットになる。自分たちが今がんばらなければ、日本のものづくりに二相系ステンレスが欠如したままになってしまう。それは大きな損失だ。二相系ステンレスに精通した講師を招いて勉強会も行い商品知識を身につけた。ポンプメーカーとの取引を通じて技術的ノウハウも蓄積することができた。もはや二相系ステンレスを普及させることはアークハリマの使命である。営業担当者は熱い思いを胸に一社一社訪問し、提案活動を続けていった。
各種プラントへ展開中
営業エリアも播磨、関西ではなく、全国に広がった。営業スタイルも変わった。入社と二相系ステンレス導入の時期が重なり、二相系ステンレスの営業を担当し続ける山口太亮(だいすけ)は振り返る。
「お客様の課題、要望をしっかり理解し、この材料を使えばどのようにそれが解決できるかを提案します。値段が高いか安いかではなく、説得力のある技術的な説明が必要です」
アプローチする企業の顔ぶれも汎用材料とは異なる。
「産業用機械・装置のメーカーではなく、そこに製造を発注するエンドユーザーを訪問します。課題を解決したいと思っているのはエンドユーザーであり、海水淡水化装置のポンプのケースと同様に材質選定の決定権を持っているからです」
山口は、常に世の中にアンテナを張り、これは二相系ステンレスで解決できそうだという課題を見つけると、その業界を代表する企業に対し、「必ず役に立てる提案ができます」とアポイントを取り付ける。それは本心から出る言葉で、それほど材料に自信を持っている。
アークハリマの情熱と挑戦が結実
アークハリマにとってターニングポイントとなった仕事がある。日本を代表する醤油醸造メーカー、ヒガシマル醤油株式会社様の巨大な貯蔵タンクの建設である。醤油は濃厚な塩分を含み、非常に過酷な環境でつくられる。そのため、製造設備の腐食も激しく、保守・更新に伴うコスト低減が課題のひとつになっていた。
そこでアークハリマは、二相系ステンレスの中でも高い耐孔食性能を持つスーパー二相系ステンレスを提案。しかしながら海外製の材料と日本独自の醤油醸造というマッチングは前例がなく、ヒガシマル醤油様と兵庫県工業技術センター、アークハリマの3者で共同研究を重ねることで合意。5年もの時間をかけて様々な試験を行った。結果、高塩分環境での優れた耐食性が認められて正式採用が決定。長期間にわたってメンテナンスフリーになることから、初期投資コストはライフサイクルコストの低減で十分相殺できると判断された。さらにこのケースではものづくりの実力も認められて、高さ15mの巨大なタンク4基の製造から現場設置まで建設工事全般をアークハリマが任されることとなったのだ。二相系ステンレスを通じてお客様の課題・問題を解決する。アークハリマの情熱と挑戦が結実した瞬間だった。
その後、提案活動が徐々に功を奏し、下記に掲げるような企業での採用が重なるにつれ、二相系ステンレスが広く認知されるようになり、同時に「二相系といえば、アークハリマ」とまで言われるように──。
国内鉄鋼メーカーからも二相系ステンレスが供給されるようになり、二相系ステンレスはアークハリマの専売特許ではなくなったが、その長所を企業の課題解決につなげ、普及させてきたパイオニアとしての自負は揺るぎない。新たな商材としてリーン二相系ステンレスNSSC2120の拡販や、ボルト・ナットメーカーとのタッグによる新たな販売方法の模索など、二相系ステンレスを最も知る企業として、これからも課題解決への挑戦は続いていく。
醤油貯蔵タンク
品名:
120KL醤油貯蔵タンク
用途:
生醤油貯蔵用
仕様:
S32750 内面#400研磨
主な取引企業
●ケミカル
帝人、東洋紡、日本酢ビ、三井化学、クラレ
●重工業
日立造船、三菱化工機、菱化製作所、新日本造機
●産業機械
キッツ、酉島製作所、クボタ、本多機工、フジキン
●食品
ヒガシマル醤油
(敬称略)
二相系ステンレス採用例
●食品タンク
●ポンプ主軸
●RO膜ノズル
●ファインケミカル向けタンク
●配管類
●熱交換器
など